一度、日本国籍を喪失し外国籍となった場合でも、長い人生の中で状況が変わり再度、日本国籍に戻りたい(帰化したい)という状況は可能性とあります。
日本の制度上、「元日本人」であった場合でも外国籍を取得したら日本においては「外国人」となることになります。帰化をする場合、帰化申請時点で日本に移住していることが前提となるため、何かしらの「在留資格」を取得しなければなりません。本編では、元日本人の帰化許可申請について解説しました。
元日本人の帰化の要件は?簡単に帰化できるか?
まずは帰化申請の要件について確認してみましょう。
「普通帰化」と「簡易帰化」について
一般的に帰化の要件は、「普通帰化」と「簡易帰化」に大別できます。これらは国籍法5~8条の中で細かく要件が定められています。
日本に就職のために来日して、日本人の家族がいないような場合、「普通帰化」に該当する方が多くなります。「普通帰化」を申請するために必要な要件は以下になります。
②能力要件:18歳以上で本国法によって能力を有すること
③素行要件:素行が善良であること(税金や年金をきちんと収めて、交通違反や犯罪をおかしていないこと等)
④生計要件:本人又は生計を一にする配偶者やその他の親族の資産や仕事によって安定して生活を送れること
⑤喪失要件:日本国籍取得によって、母国の国籍を失えることができること。もしくは無国籍者
⑥思想関係:日本政府を攻撃するような思想を持っていたり団体に属していないこと
⑦日本語能力:日本で生活する程度で困らない以上の日本語能力があること
一方「簡易帰化」とは、日本人の家族がいたり、日本に地縁があるなどする場合が該当し、「元日本人」の方の帰化についても「簡易帰化」に該当をします。
「元日本人」の方の要件は、以下の通り国籍法8条において定められています。
第八条 次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号、第二号及び第四号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。
国籍法 第八条
一 日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
二 日本国民の養子で引き続き一年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの
三 日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの
四 日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き三年以上日本に住所を有するもの
上記の通り、「元日本人」の方のうち一度日本人に帰化した後に日本国籍を喪失した場合以外は、日本に住所があれば帰化できることになります。普通帰化で求められていた「5年以上日本に住んでいること」は求められません。さらに、普通帰化に比較して緩和される要件が居住要件以外にも「生計要件」や「素行要件」が緩和されます。
「元日本人」の人が満たすべき帰化の要件
- 素行が善良であること
- 日本国籍の取得によって、母国の国籍を離脱できる
- テロリストや反社会的勢力ではない
- 日本語能力に問題がない
緩和される「生計要件」は「本人又は生計を一にする配偶者やその他の親族の資産や仕事によって安定して生活を送れること」、「素行要件」は「素行が善良であること(税金や年金をきちんと収めて、交通違反や犯罪をおかしていないこと等)」が該当します。
「元日本人」の方が帰化を検討されるシーンの一つに老後は日本に住みたいなどの理由が多いことなどを考えると、特に「生計要件」が課されないのは大きいのではないでしょうか。
帰化をする前に、「外国人」として日本での在留が必要
「元日本人」の方の帰化で最も大変なことは、日本に戻るために在留資格を取得することです。日本では二重国籍は認められないため、外国籍を取得すると日本では「外国人」ということになってしまいます。入国するためには何かしらの在留資格を取得しなければなりません。
在留資格とは
「在留資格」とは、外国人が合法的に日本に上陸・滞在し、活動することのできる範囲を示したものです。2022年1月現在29種類の在留資格があります。在留資格は「ビザ」という名称で呼ばれることが多いです。
在留資格の一覧は下記になりますが、言い換えると以下に当てはまるものがない場合は、日本での滞在はできないということになります。
つまり、「元日本人」が日本人に帰化する場合、まずは上記の在留資格のどれかに当てはまっている状態である必要があります。(表の通り「元日本人」という在留資格はありません。)
また、帰化申請は申請準備から許可まで最低1年間の時間が必要です。当然、“観光ビザで入国をし申請をする”というようなことは認められず、生活基盤を日本に移してから帰化申請をすることになります。
「元日本人」の方で比較的日本に移住しやすい方法としては、日本人の家族がいる場合や日本で就職する場合が該当します。
日本人の家族がいる場合
日本人の家族がいる場合、在留資格『日本人の配偶者等』を取得することになります。この在留資格では、配偶者(夫・妻)や両親が日本人である場合に取得することができます。
両親が日本人の場合
おそらく多くの場合にこの条件によって『日本人の配偶者等』を取得することになります。
日本は血統主義のため、(生まれたときに)両親のどちらかが日本人であれば「日本人の子」に該当するからです。
両親が日本人の場合、「日本人の実子」として『日本人の配偶者等』の在留資格を申請します。「家族滞在」や「定住者」には子どもを呼ぶことができる年齢に制限はありまずが、日本人の配偶者等の場合は「実子」に年齢制限はありません。また、出生場所は日本・海外を問いません。特別養子である場合にも同様に『日本人の配偶者等』が認められます。
この場合、出生した時点で両親のいずれかが日本国籍であればよく、出生後に日本国籍を離脱した場合でも「日本人の実子」に該当します。一方、生まれたときに両親が外国人であった場合で、その後日本人となった場合は「日本人の実子」に該当しません。
配偶者(妻・夫)が日本人の場合
配偶者(妻・夫)が日本人の場合、婚姻関係が法的に成立していてかつ日本で同居する場合など『日本人の配偶者等』の要件を満たす状態であれば、まずは『日本人の配偶者等』の在留資格を取得します。婚姻関係は事実婚では足りず、海外・日本どちらにおいても婚姻関係が成立している必要があります。
日本で安定した生活を送れる状態である必要がありますが、リタイア後の移住である場合には貯金や年金などで生活が維持できれば問題ないと言えます。
日本人の親族がいない場合
一度、『日本人の配偶者等』の要件を満たさない場合などには、別の在留資格を取得することを検討します。検討すべきは日本で就職・起業をすることや、もし配偶者の方が在留資格を持っている場合にはその配偶者として在留資格を取得することになります。
日本で就職をする
就職先が決まってから入社(・入国)までの間に在留資格の申請をします。
就労が認められる在留資格は19種類ありますが、その中から要件を満たす相応しい在留資格を取得することになります。一般的なサラリーマンの場合に該当する在留資格の代表例は『技術・人文知識・国際業務』となります。どの就労ビザがふさわしいかどうかの判断は、とても複雑になるため下記の当事務所の記事を参考いただくか、直接お問合せいただけたらと思います。
日本で起業をする
日本で起業をする場合、在留資格『経営・管理』を取得します。
身分系の在留資格『日本人の配偶者等』『永住者』『永住者の配偶者等』『定住者』を持っている場合には、活動内容に制限は無いため身分系の在留資格のまま起業をしても在留資格的には問題ありません。
在留資格『経営・管理』の取得は非常にハードルが高く、資本金やオフィスの要件、許認可取得など注意をしなければならないならない点があります。また海外にいる場合は、起業前に準備のために何度か来日するか、日本にいる協力者と一緒に取り組むなど工夫が必要になります。在留資格『経営・管理』を取得後に起業準備をするということも可能ですが、いずれの場合も計画性が求められます。
在留資格を持つ外国籍の配偶者として入国する
在留資格を持つ場合で、配偶者として在留資格を取得できる場合があります。例えば、『永住者の配偶者等』『家族滞在』『特定活動』などが挙げられます。どの在留資格を取得すべきか(取得できるか)は、配偶者の在留資格によるものになります。
帰化申請の流れ
帰化申請の基本的な流れは以下の通りです。
帰化許可申請は法務局で行います。(※入管ではありません)
また、帰化許可申請をするためには必要書類を申請書類を作成・確認を行うために何度か法務局に通うことになります。
法務省HPのページを見ても非常にシンプルで、何をどうしたらいいかは一切書かれていません。ちなみに、「帰化許可申請書」の見本が掲載されていますが、帰化申請の場合は「申請書」1枚提出すれば済むような話ではありません。大量の書類の準備をしなければなりません。その準備のために法務局へ相談に行くことになります。
法務局は、帰化許可申請を受け付けているお住まいのエリアを管轄するところに行きます。
帰化の希望者はかなり多く、都市部の法務局は予約を取るのに1〜2ヶ月かかることもあります。
法務局では、まずあなたが帰化の要件を満たしているかのヒアリングを行い、集めなければならない書類を教えてもらえます。また、帰化にいての不安をここでしっかりと払拭しておきましょう。
帰化申請は、ビザの申請と異なり法務局の相談員の方と相談を何度も行います。
基本的に、「許可の見込みがある人」だけが「申請」することになります。その後、書類の準備が完了し申請が受理されると審査期間に入り、その後1年程度で結果が出ます。
いずれにしても、帰化許可申請は日本に在留(移住)できるようになった後の話しになります。元日本人の方の帰化許可申請のハードルはそこまで高くありませんが、国籍を変更したり海外での生活を送っている分、必要になる書類・証明すべき事項は多くなります。準備に時間がかかる場合もあるため、決めた計画がある場合など急いでいる場合などは帰化の専門家に相談されることをお勧めします。
まとめ
以上、元日本人の方の帰化申請について解説しました。
帰化許可申請をする前に、まずは在留資格を取得し日本に移住をしなければなりません。その場合、元日本人の方の多くのケースで『日本人の配偶者等』(日本人の実子として出生した者)として在留資格を取得できますが、要件を満たさない場合には就労系の在留資格を検討する必要があります。
【行政書士からのアドバイス】
元日本人の方の場合、帰化においては「有利」「不利」はありません。他の外国籍の方と同じように書類をたくさん集めて申請書を作成することになります。当事務所では、元日本人の方の帰化申請のサポートを行っております。お気軽にお問合せ下さい。